はじめに
今、日本は国をあげて新しい会社(スタートアップ)を育てようとしています。政府は大きな投資計画を発表し、「これからだ」と意気込んでいます。
しかし、その大きな目標とは裏腹に、なぜ日本の起業環境はアメリカなどの国と比べて、まだ大きな差をつけられているのでしょうか?本当に足りないのは、単に政府が投入するお金の量だけではないのかもしれません。
この記事で私たちが探るのは、単なる資金の問題ではなく、世界との差を生んでいる起業家精神や、失敗に対する社会の向き合い方という、より深い文化のズレです。
この挑戦をためらう空気や考え方の違いを乗り越える鍵こそが、海外での経験にあります。海外の現場で実際に挑戦し、失敗は学びになると受け入れる文化に触れることで、私たちは何を手に入れられるのでしょうか。
両方の良いところを繋ぎ合わせる循環こそが、日本の起業力を大きく高める原動力になるはずです。この新しい視点から、日本の未来を切り拓く起業家の役割を見ていきましょう。
今回は日本と海外の起業環境を具体的な点から比較し、海外で得た挑戦する心と、世界に誇れる日本人としてのサムライ魂をどう組み合わせるかを考えます。
目次
- 10兆円計画の裏側:なぜ日本の支援策は足りないのか?
- 起業家精神の真実:「会社設立=成功」という致命的な誤解を解く
- 世界で勝つための決定的な差:日本が抱える4つの壁(海外エコシステムとの比較)
- なぜ今すぐ海を渡るべきなのか?海外経験がもたらす4つのブレイクスルー
- 挑戦が形になる瞬間:IBPビジネス留学経験者が証明する海外経験の再現性
- 世界が羨む日本の「現場力」と4つの資産
- 【最終提言】未来の起業家へ:グローバルに学び、ローカルに活かせ
- まとめ

1. 10兆円計画の裏側:なぜ日本の支援策は足りないのか?
日本政府は2022年に「スタートアップを育てるための5年間の計画」を発表しました。
この計画では、スタートアップ(新しい会社や挑戦)への投資を5年で約10倍、つまり10兆円ほどに増やすという大きな目標を立てています。
国と民間が協力して、「人材」「お金」「新しいアイデアを生み出す仕組み」の3つを強くしていこうという考えです。
ただし、実際のところ日本はまだ、アメリカなどの国に比べるとスタートアップへの投資や市場の規模に大きな差があります。
たとえば、アメリカではスタートアップに流れるお金の量が日本とは比べものにならないほど多いです。
つまり、日本では政策としてやると宣言していても、現場ではまだ課題がたくさんあります。
お金が十分に回っていないこと、リスクを取って挑戦する人を支える資金が少ないこと、失敗しても再挑戦できる文化が育っていないことなど、すぐに成果を出すにはいくつもの壁を乗り越える必要があるのです。

2. 起業家精神の真実:「会社設立=成功」という致命的な誤解を解く
多くの人は「起業=会社を作ること」や「起業=大成功してお金持ちになること」と思いがちです。
でも、本当の意味での起業とは社会の中で新しい価値をつくり、今ある問題を解決することです。
会社をつくるかどうかや、すぐに売上が出るかどうかは関係ありません。
大切なのは、
「問題を見つける → 試してみる →改善する」
というサイクルを続ける前向きな姿勢です。
これこそが「起業家精神(アントレプレナーシップ)」です。
この勘違いは、個人の考え方にも社会の仕組みにも影響します。
形だけの“起業”が増えても、本当に成長できるスタートアップや価値ある挑戦は生まれにくくなります。
本質的に何が必要かを見極める必要があるのです。
3. 世界で勝つための決定的な差:日本が抱える4つの壁(海外エコシステムとの比較)
以下は、起業の現場で差として出ている代表的な要因です。
3.1 失敗は終わりではない:再挑戦を阻む社会の空気
日本と海外の「起業を取り巻く環境」のちがい
海外
失敗しても、それは学びになる、再挑戦した人は評価されるといった考え方が広く受け入れられています。
日本
一度の失敗が信用を失う、次の仕事が見つかりにくくなるといった形で長く影響することがあります。
そのため、多くの人が失敗したら終わりだと感じてしまい、挑戦をためらう大きな理由になっています。
3.2 成長を止める資金の壁:アメリカとの差
スタートアップに投資するベンチャーキャピタルや個人投資家(エンジェル投資家)の数・規模は国によってかなり差があります。
日本でも投資額は増えてきていますが、アメリカなどと比べるとまだまだ小さく、特に成長途中の会社が大きく伸びるための資金を得るのは難しいのが現状です。
*ベンチャーキャピタル(VC):
成長が見込まれるスタートアップに投資し、会社の株を持つことで将来の利益を狙う専門の投資会社。
*個人投資家(エンジェル投資家):
自分の資金で起業したばかりの会社に投資し、経営の助言や人脈の支援も行う個人。
3.3 申請地獄と戦う起業家 国策と現場のズレ
国や自治体からの補助金・創業融資などの制度は増えていますが、
申請書類が複雑、お金が出るまで時間がかかる、スタートアップの定義があいまいなどの理由で、現場では使いにくいと感じる人が多いです。
国の大きな目標と、実際に起業家が直面する手続きの間にズレがあるのが課題です。
3.4 「正解主義」が生んだ挑戦できないマインドセット
日本の学校や企業では正しい答えを出すこと、安定した道を歩むことが重視されがちです。そのため、失敗して学ぶ経験や自分で試してみる授業はまだ少ないのが現状です。
結果として、学生のうちから起業や挑戦に触れる機会が少なく、挑戦を応援する文化が育ちにくいのです。
4. なぜ今すぐ海を渡るべきなのか?海外経験がもたらす4つのブレイクスルー
アメリカでは、スタートアップを支えるエコシステム(支援のつながり)が非常に発達しています。
シリコンバレーをはじめとする地域では、大学、投資家、企業、行政が密接に連携しています。大学では学生のうちから起業を体験できるプログラムがあり、投資家は失敗しても学びになると考えて、若い起業家にも積極的に資金を出します。
また、国や州政府も研究開発型スタートアップに補助金を出したり、税制優遇を行ったりして後押ししています。
「挑戦する人を応援する空気」と「お金が動く仕組み」が一体になっている点が、アメリカの大きな特徴です。
このようなアメリカをはじめとする海外で学んだり起業したりする経験には、次のようなメリットがあります。
- 考え方が変わる(マインドセットの転換)
失敗を学びとして受け入れる文化に触れることで、挑戦への不安が減ります。 - 人とのつながり(ネットワーク)
同じ志を持つ仲間や投資家、経験豊富なメンターに出会いやすく、帰国後の活動にも役立ちます。 - 行動と改善の速さ
海外では「試す→直す→また試す」というサイクルが早く、事業の成長スピードが速いです。 - 制度を比べる視点
海外の仕組みを知ることで、日本の制度の良い点・課題を客観的に見つめ、改善のヒントにできます。
5. 挑戦が形になる瞬間:IBPビジネス留学経験者が証明する海外経験の再現性
4章で、海外経験がマインドセットやネットワーク、行動の速さといったブレイクスルーをもたらすことを紹介しました。しかし、実際にその経験をどう活かし、起業という形にできるのか?という疑問を持つ方もいるでしょう。
IBPビジネス留学は、単なる語学学習ではなく、海外企業でのインターンシップを組み込むことで、座学で学んだ起業家精神を現地のビジネスシーンで試せる実践の場を提供しています。この実践こそが、日本社会にある失敗を恐れる文化を乗り越えるための訓練となります。
実践者が語る成功の方程式:挑戦は形になる
IBP留学卒業生の一人、市川大智氏はまさにこの挑戦と実行のサイクルを体現した起業家です。彼は、留学経験を通じてリスクを取って挑戦するマインドと多様な価値観の中でプロジェクトを前に進める力を身につけました。帰国後、その経験と人脈を活かし、事業を立ち上げ成功させています。
重要なのは、彼らが特別な才能を持っていたからではありません。彼らは、海外という環境に身を置くことで、
- 「問題を見つける → 試す → 改善する」という起業家精神を実地で体得したこと。
- 海外で構築した人脈を帰国後の事業に活用したこと。
- 日本の優れた技術力や品質を、海外で学んだアジャイルなビジネス手法と掛け合わせたこと。
この3つのステップを踏んだことです。あなたの持つ潜在的な力と、海外で得られる挑戦のマインドが組み合わされば、あなた自身も世界と日本をつなぐ起業家として、新たな未来を構築することが可能です。

6. 世界が羨む日本の「現場力」と4つの資産
日本の強みも忘れてはいけない
海外のほうが進んでいるといった単純な比較ではなく、日本にも世界に誇れる強みがあります。弱点ばかりを見るのではなく、自分たちの資産をどう活かすかが大切です。
日本には『高い技術力』『品質管理の精度』『世界からの信頼』『真面目で丁寧な仕事文化』といった強みがあります
- 高い技術力:製造業やエンジニアリングの分野で、精密さ・独創性・耐久性に優れた技術を持つ。
- 品質管理の精度:不良品を出さない、細部まで確認するなど、品質を守る仕組みが強い。
- 世界からの信頼:日本製というだけで信頼されるブランド力がある。
- 真面目で丁寧な仕事文化:小さな約束も守り、誠実に働く文化が根づいている。
これらは、短期的なトレンドでは真似できない日本独自の価値です。
海外で得た“挑戦するマインド”と、日本の“実行力・品質”が合わされば、大きな力になります。
海外ではとにかくやってみる、失敗しても学びになるという挑戦のマインドが強い。一方で日本は一度決めたらやり切るという実行力・改善力がある。
この2つが組み合わさると、
- アイデアをすぐ試しながら
- 現場で確実に実現していく
という行動力 × 信頼の両立が可能になります。
それが世界市場でも強みになります。

7. 【最終提言】未来の起業家へ:グローバルに学び、ローカルに活かせ
大事なのは海外と日本をつなぐ力
海外をまねるでもなく、日本に閉じこもるでもない。
両方の良さを理解して、橋渡し役になれる人・仕組みが必要だという意味です。
たとえば:
- 海外で学んだ起業家が日本に戻って、学んだ方法を応用する
- 日本の技術者が海外のスタートアップと協働する
- 行政や大学が海外の支援制度を参考にして改善する
こうしたつなぐ人材や仕組みがカギになります。
政府の5か年計画のような制度は追い風になりますが、現場での使いやすさや文化の変化には時間がかかってしまう、、、
制度が整っても、
- 書類や手続きが複雑
- 支援対象が限られている
- 社会の失敗を許す空気がまだ弱い
などの理由で、実際の行動変化には時間がかかります。
個人レベルでは海外経験を通じてマインドや人脈を広げ、組織や地域では制度の簡素化や再挑戦の支援などを進めていくことが重要です
- 個人レベル:海外に出て新しい価値観や人脈を得る(=挑戦する心を育てる)
- 組織・地域レベル:制度や支援をより使いやすく整える(=挑戦しやすい環境を作る)
つまり、マインドセットの変化(人の成長)と制度の改善(仕組みの進化)の両方が必要ということです。
8. まとめ
日本は『技術力』や『秩序立った社会』といった強みをすでに持っています
これは再び日本の“土台の強さ”を確認する部分です。
混乱が少なく、信頼性が高く、仕組みがしっかりしている社会は、起業にとっても安定した基盤になります。
そこに『失敗を許す文化』や『挑戦を支える資金』、そして『国際的な経験を持つ人材』が加われば、より強い起業の土台ができるでしょう
これは理想の未来像です。
すでにある日本の強み(土台)に、以下の3つを掛け合わせると、起業エコシステムが完成するという考えです。
- 失敗を許す文化 → 挑戦する人が増える
- 挑戦を支える資金 → 成長を支えるお金が流れる
- 国際経験を持つ人材 → 海外の知見やネットワークを持ち帰る
グローバルに学び、ローカルに活かす姿勢が、今後の日本の起業家精神(Entrepreneurship)を支えます。
海外で挑戦し、学び、日本で実行する。
その循環こそが、新しい価値を生み出す原動力になります。
「世界と日本をつなぐ起業家」が、これからの時代を動かしていきます。
参考資料:内閣府「スタートアップ育成5か年計画」資料、財務省/関係機関のスタートアップ投資に関する報告、JETROの海外エコシステム分析、Forbes Japanの文化論考など。