留学や海外大学への進学を目指す際、多くの学習者が最初の関門として挑戦する「TOEFL iBT®」。しかし、英語テストのスコア獲得は目的ではなく、世界へ踏み出すための「スタートライン」に過ぎません。
今回は、TOEFLテストを開発・運営する世界最大規模の非営利教育評価機関、「ETS」の日本法人であるETS Japan合同会社から平 慶彦 氏をお招きし、数多くの学生・社会人を海外大学・現地インターンシップへと送り出してきたSEKAIA株式会社副社長 / IBPプログラムディレクター 万出 恵と対談しました。
TOEFLが世界中で評価され続ける本質的な理由から、平氏自身のアメリカ留学・OPT(現地就業)経験、そしてこれからの時代に求められる「真のグローバル人材」の条件まで、実践的な知見をお届けします。
対談登壇者

平 慶彦 氏
ETS Japan合同会社 事業企画部 セクションチーフ
TOEFL iBTの普及促進を中心に、大学・高校との連携、交換留学支援プログラムの企画運営を担当。TOEFL Open Possibilities Program(TOP Program)やTOEFL HACKなどの取り組みを通じて、日本の若者が世界で学び、活躍する機会の創出に携わる。

万出 恵
SEKAIA副社長 / IBPプログラムディレクター
高校時代をニュージーランドで過ごし、大学卒業後は化粧品ブランドの立ち上げやブランドマネージャーを経て独立。地方自治体やベンチャー企業のコンサルティングを経験後、現在はグローバル人材育成・IBPビジネス留学プログラムの設計・統括を担う。
目次
- TOEFLが世界で評価され続ける理由とテストの最新動向
1.1. 開発母体ETSのミッションと教育測定科学へのコミットメント
1.2. 世界160カ国・13,500以上の教育機関がTOEFLを信頼する理由
1.3. 社会的変化に伴うTOEFLの改訂と2026年最新情報 - 英語スコア獲得の「その先」にある海外留学(平氏の実体験)
2.1. 9.11テロによる専攻断念の危機と教授から学んだ「学び方を学ぶ力」
2.2. 現地アメリカ企業での就労と日米ビジネスカルチャーの違い - 留学経験をグローバルキャリアへと繋ぐ実践知
3.1. グローバル人材の条件と日本を知る重要性 - 海外留学の真の価値とスタートラインとしての英語学習
4.1. 不確実な時代に留学をする価値
4.2. これから留学に挑戦する方へアドバイス|TOEFLはスタートライン
1. TOEFLが世界で評価され続ける理由とテストの最新動向
1.1. 開発母体であるETSのミッションと教育測定科学へのコミットメント

留学や海外進学を志す人にとって、TOEFLは非常に身近なテストですが、そもそも開発元であるETSとはどのような組織なのでしょうか?

ETS(Educational Testing Service)は、アメリカに本部を置き、人々の未来を見据えた学習・教育ソリューションを提供する非営利の教育評価機関です。私たちは「Advancing the Science of Measurement to Power Human Progress(教育測定技術の向上によって、人類の発展を促進する)」という壮大なミッションを掲げています。具体的には、「2035年までに1億人以上の人々に対して、次世代の仕事に備えられるよう支援していく」ことを目標としています。
今の時代、技術や産業、特にAIが進化して、ライフスタイルや価値観も変わってきているじゃないですか。そうした変化の中で、人々が競争力を維持しながらスキルを高めていくことが、より良い未来につながると考えています。ETSとしては、そのスキルや能力を正しく測定するための科学を進化させることにコミットしています。

そのスキル測定の一つとして、英語力を測るTOEFLがあるのですね。

はい。TOEFL以外にも、TOEIC®や大学院進学で使われているGRE®、OECDが実施している15歳の学生を対象とした学力調査「PISA」など、様々な試験開発に関わっています。全て含めると年間で5,000万人以上の方が、ETSのテストを受験しています。TOEFL単体でも、現在160カ国13,500以上の教育機関で採用されています。
2.2. 世界160カ国・13,500以上の教育機関がTOEFLを信頼する理由

TOEFLがこれほどまでに世界的に評価されている理由はなんでしょうか?

理由は大きく2つあります。1つ目は、テスト内容の実践性の高さです。4技能(読む・聞く・話す・書く)を総合的に評価し、実際の海外大学で必要となる実践的な英語力を測定することができます。
2つ目は、継続的な研究と改善による妥当性と公平性の担保です。ETSは75年以上の歴史があるのですが、これまでに約12,000本の研究論文を発表しているんです。年間で言うと約160本、2日に1回くらいのペースで論文を発表していることになりますね。その研究成果に基づいて、ETSはテストの妥当性を検証し続けています。この75年分の教育研究の知見の上に成り立っている試験だからこそ、TOEFLは評価され続けているのではないかと思います。

1.3 社会的変化に伴うTOEFLの改訂と2026年最新動向

研究をされながらテストの改良を続けているとのことですが、機械の発達や社会的な変化も試験の改良に影響しているのでしょうか?

まさにその通りです。1964年にTOEFLが誕生した当初は、スピーキングがなく、文法やリーディングが中心のテストでした。その理由は、当時のアメリカの大学授業の多くが、講義形式だったからです。
そこからディスカッション中心の授業が増えていくのに伴い、スピーキングが追加され、エッセイを評価するというところで、ライティングを導入しました。
試験形態も、ペーパーからコンピュータに移行しています。

リスニングに関しても、アメリカ英語以外のアクセントが増えていますよね。

はい。実際留学したら、いろんなアクセントを聞くじゃないですか。我々は「ウォッシュバック効果」と呼んでいるのですが、テストを通じて違うアクセントがあることに気づき、それが多様なアクセントを聞くきっかけにもなるので、アメリカ英語以外のイギリスやオーストラリアなどの英語圏のアクセントを幅広く取り入れています。

最近でいうと、TOEFLの試験内容はどのように変化していますか?

実は、2026年は大きな変化があり、今回で5回目の改訂になります。元々のアカデミック中心なテスト構成に、より現代の学びに合った実践的なタスクを追加しています。例えば、留学した時のオリエンテーションやカウンセラーへの相談など、キャンパス内で広く実践的に使われるような内容も含まれるようになっています。
2. 英語スコア獲得の「その先」にある海外留学(平氏の実体験)
2.1 9.11テロによる専攻断念の危機と教授から教わった「学び方を学ぶ力」

英語スコアを取得する目的の一つとして、留学や海外進学がありますが、平さんご自身も高校卒業後、アメリカの大学に進学されたのですよね?

はい。私は2000年に渡米し、カリフォルニア大学で航空宇宙工学を専攻しました。子どもの頃から飛行機やロケットが好きで、航空宇宙を学ぶならNASAがあるアメリカだなと思い、海外進学を決めました。

実際に航空宇宙工学を学ばれる中で、ご自身のキャリア観に変化はありましたか?

対外的に変わらざるを得なかった部分と、内発的に考え方が変わった部分があります。前者の外発的要因は、2001年に発生した「9.11同時多発テロ」です。航空機を使用したテロにより、航空宇宙業界全体の就職が厳しくなりました。
一方、内発的にポジティブな変化もありました。ある教授から、「君たちは知識を得るためにこの場にいるんじゃない。『学び方を学ぶため』にここにいるんだ」と言われました。つまり、何か新しいことを始めたい時に、どう学んでいくかを学ぶ場だということです。その言葉から、航空宇宙工学に縛られず、別に興味があるものがあれば、自分で学び方さえわかっていれば、新しいことにも挑戦できると気づきました。そういった意味で、「卒業後も何だってできる」というマインドセットになれたことは大きかったです。

2.2 現地アメリカ企業での就労と日米のビジネスカルチャー

そうした意識の変化が、後のOPT※(現地就労)で新しい分野に挑戦する後押しにもなったのでしょうか?

そうですね。航空宇宙業界は履歴書も受け取ってもらえないほど厳しい状況でしたが、「せっかくアメリカに来たんだから残りたい」という思いがありました。そんな中、知人から測量会社を紹介してもらいました。話を聞いてみると、大学で学んだ設計ソフトを使っていたり、人工衛星から位置情報を取って測量をしていたりと、自分の興味と重なる部分があり、ここで働くことになりました。

業界は異なっても、ご自身が学ばれていたことと繋がる部分があったんですね。

そうなんですよ。あのまま航空宇宙へのこだわりが強かったら、日本に帰国する選択を取っていたかもしれませんが、「学び方を学んだ」結果、CADエンジニアの仕事に就けたのかなと思います。

アメリカで実際に働いてみて、日本のビジネスカルチャーと違う部分はありましたか?

一つは、上司との距離感が近いことです。会社の規模にもよると思うんですが、マネージャーや社長ともファーストネームで呼び合うので、フランクな関係で仕事ができていたと思います。
二つ目は、セクショナリズムが強いことです。「これは俺の仕事。それはジョブディスクリプションに書いてないから俺の仕事じゃない」と仕事の分担がはっきりしています。あと、日本は「働くこと」が軸になっていて、休む時にも仕事の心配をしがちですが、アメリカは「プライベート」に軸を置いているので、仕事としてきちんと割り切っているのはいいなと思います。
※OPT(Optional Practical Training)とは
アメリカにて学生ビザで就学している学生が、専攻した分野と関連のある職種で、最長12ヶ月実務研修ができる制度です。IBPビジネス留学のアメリカコースでは、OPTを利用したインターンシップが可能です。
3. 留学経験をグローバルキャリアへと繋ぐ実践知


OPTの後はどのようなキャリアを歩まれたのですか?

OPTの後そのまま測量会社で4年間勤務し、日本に帰国後、化学メーカーで海外営業の仕事をしました。日本と海外を繋ぐ役割として、インドネシアやタイなどへの営業や資料翻訳、海外の展示会への出展などを行いました

アメリカでの就労経験から帰国後の海外営業、そして現在に至るまで、多国籍な方と関わりながらお仕事をされていますが、「グローバルに働く」上で大切なことは何だと思われますか?

よくある誤解として、「グローバル人材=英語ができる人」と思いがちですが、英語はあくまで前提条件であり、武器ではなくツールです。本当に必要な力というのは、自分の考えを持つことや異なる価値を理解すること、違いを受け入れることだと思います。
そしてもう一つ大切なことは、世界と日本の両方を理解することです。留学をしていた時にも感じたのですが、「日本のことをどれだけ知っているか」はすごく重要です。海外留学に行っても、結局聞かれることは日本のことで、違和感を覚えた時には、「日本はこうです」と説明する必要があります。仕事で海外企業とやりとりをする時にも、「じゃあ日本はどうなの?」と聞かれます。つまり、単に英語ができても、日本の市場や文化、社会の仕組みを知らなければ、日本人として世界で戦うことは難しいと感じました。
「グローバル人材」とは、英語で日本と世界の橋渡しをする人ではなく、日本の状況を知った上で、橋渡しができる人だと私は思います。

まさにその通りですね。「グローバル人材」や「グローバルに働く」という言葉を聞くと、外の世界へ目を向けがちですが、同時に自国を見つめ直す内向きの視点が不可欠です。留学した学生からも「海外に出て、自分が日本のことを全然知らなかったと痛感した」という声をよく聞きます。

そうですよね。留学は世界を見る経験であると同時に、日本を見つめ直すいい機会だなと思っています。
4. 海外留学の真の価値とスタートラインとしての英語学習

4.1 不確実な時代に留学をする価値

最近は、円安やビザの制限などで、以前に比べると留学をすることが難しくなってきていると同時に、オンラインや日本国内で完結するプログラムも出てきています。このような状況下でも「海外に行く意味」は何だと思われますか?

今は、YouTubeやいろんなところで海外の情報を得られるから、わざわざ海外に出なくてもいいのではという意見はよく聞きます。ですが私は、「情報は人を豊かにする」けれども、「体験は人生を変える」と思っています。
一度外に出ることで、日本の良さや自分に足りないものを客観視することができ、異なる文化の人との出会いが、固定観念や共通認識を平気で壊してくれます。
また、日本にいると「なんかこれ違うな」と違和感を抱くことは少ないと思います。でも私は、その違和感や不快感こそ、人間が成長するきっかけになると思うんです。違和感から「自分はこう思ってたんだ」と気づき、視野が広がる。そうした違和感をシグナルとして自分の成長に変えていけるチャンスは、コンフォートゾーンである日本ではあまりないと思います。
4.2 これから留学に挑戦する方へアドバイス|TOEFLはスタートライン

これから留学を考えている方たちへ伝えたいことはありますか?

海外留学をするにあたって、TOEFLなどの勉強をすると思うのですが、一つ覚えておいていただきたいのは、「スコアをゴールにしてほしくない」ということです。基準のスコアを取った瞬間に、スタートラインに立てると思ってください。
私が留学した時もそうだったのですが、TOEFLで目標スコアを取得できたからある程度大丈夫だと思って行ったら、全く通用しませんでした。あくまでもTOEFLは入口、入学要件の一つで、その後求められるのはよりハードな英語運用能力です。
私は、TOEFLは健康診断だと考えています。やってきたものしか出ないし、それをゴールにするのではなく、自分の現状を確認できる機会にしてください。
TOEFLをスタートラインに、より多くの方が海外に挑戦できるよう、私たちETS Japanもサポートしてまいります。

平さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
「TOEFLのスコアを取ることは、留学のゴールではなくスタートライン」。
平さんのお話を伺い、この言葉の意味をあらためて考えました。
目標スコアは、海外で学び始めるための入口。その先には、思うように伝わらない悔しさや、慣れない環境で感じる違和感、予想外の進路との出会いがあります。
平さんが語られた「学び方を学ぶ」という視点は、専攻や将来を一度決めたら変えてはいけない、という思い込みを軽くしてくれるようでした。
世界に出ることは、英語を使う力だけでなく、自分の考えを持ち、異なる価値観を受け止める力を育てること。そして同時に、日本や自分自身を見つめ直すことでもあります。英語の学習は、目的地に着くためだけでなく、目の前の人や出来事に向き合うための準備でもあると感じます。
情報を得るだけでは出会えない経験が、次の一歩をつくっていく。スコアの先に広がる学びと可能性を、一人でも多くの方に感じていただけたらうれしいです。
SEKAIA株式会社(SEKAIA Inc.)について
1989年創業、35年以上の実績を持つ留学・海外研修の企画運営企業です。2025年11月1日に「株式会社ICCコンサルタンツ」より社名を変更いたしました。
【主要プログラム】
- 大学・大学院進学: オーストラリア大学出願センター運営、マレーシア大学進学など。
- 高校留学: オーストラリア・ニュージーランド・カナダへの正規高校留学。
- IBPビジネス留学: ワシントン大学、サンフランシスコ州立大学、シドニー大学、グリフィス大学、ウエストミンスター大学などと提携した、1年間のビジネス留学プログラム。
- AIP(エアライン留学): 航空業界を目指すための専門留学プログラム。
- 海外から日本への留学: 日本でのキャリア構築の為、海外学生・社会人向けに「Internship in Japan」を運営。
【認定・加盟】 JAOS(海外留学協議会)正会員 / 東京都知事登録旅行業第2-8694号